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星空に窒息

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■「星空に窒息」
小説(短編):小野木のあ
・星空に窒息
・風船の頃
・暗闇偏愛日記
・自販機蹴とばして夏
・旅客機が腹見せ飛んで行く
短歌:小野木のあ
自由律俳句:小野木のあ
表紙イラスト:小野木のあ

  *

「自販機蹴とばして夏」

 なにもかも、最低だった。
 夢を抱いて上京してから4度目の春、私は実家に出戻った。  22歳。夢も希望も仕事もない。やりたいことなど何もない。息をするのも面倒くさい。時間が過ぎていくのをじっと待つだけの毎日だった。実家に戻ってから一ヶ月の間、私はほとんど自分の部屋から出ず、眠ってばかりいた。
 その日は昼過ぎに一度目を覚まし、布団から出てコタツに移動した。家族は仕事や学校に出かけていて、家には私と猫だけだった。私に気付いて近寄ってきた猫を抱きかかえて、そのままコタツに潜り込んだ。猫を撫でている時だけは、気持ちが和らいだ。  
 そのままコタツの中でうとうとしていると、チャイムの音で目が覚めた。一度は無視したけれど二度目のチャイムで起き上がり、寝間着のまま玄関の戸を開けたがそこにはもう誰もいなかった。起こされた猫はコタツから走り去って行った。まだ眠かったけれど、もう一度コタツに戻る気持ちにはなれなくて、仕方なく着替えて外に出た。
 実家は山を削って作られた高台の分譲地にあった。その住宅地を抜けて、畑道をなんとなく舗装しました、といった感じの細い坂道を登っていく。畑の真ん中にある道の途中には、ぽつりぽつりと民家が並んでいる。黙々と歩いていると、右手にある古い一軒家の玄関口に立っている女の子と目が合った。女の子は私に向かって「こんにちは」と叫び、満面の笑みで手を振った。仕方なく私も「こんにちは」と口を動かし笑顔を作った。両頬の筋肉が引き攣る不快な感触がした。私は女の子の視線から逃げるようにして歩くスピードを上げた。  久しぶりに歩く外は、ずいぶん暖かくなっていた。私が眠っている間に春は終わってしまったようだった。風にはまだ冷たさが残っているけれど、青天の日差しは初夏のそれだった。

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