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ゆめのかけらたち

¥400 税込

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サークル:白白明けで待ち合わせ
作家:藍沢紗夜

悩みながら、戸惑いながら、喪いながら。それでも生きていくための掌編小説集

過去に Web掲載した青春小説、純文学風、童話風など全11 編の掌編を加筆修正し収録、未公開作品も加えた自選掌編作品集です。1万字以下のお手軽に読める作品を集めました。


 花が散る前に、一つ
 花は、いつか散るからこそ美しい。最初にそう言ったのは、誰だったのだろう。
「 晴之さん、こっちこっち」
 華奢な手で僕の手を引いて、円花はこの博物館の奥、鉱物が展示された場所に足取り軽やかに歩いていく。
「そんなに急がなくても」
「だって、早く情之さんに見てほしくって。ほら、綺麗でしょ? 自然の中でこんなに素敵なものが創り出されるなんて、なんだか 神秘的よね」
 円花は腰を屈めてその水晶を覗き込んだ。
 僕は、得意げにそう語る彼女の横顔ばかりが気になって、水晶ではなく、隣の彼女をじっと 見つめてしまう。
「綺麗だ」
「でしょ? ・・・・・・って、晴之さん、どうして私を見てるの。展示を見てよ」
「うん、見てるよ、 ちゃんと」
 本当に? と不満げに頬を膨らます彼女の耳が、ほんのりと色づく。それがなんだか可笑し くて、僕はふっと笑みを漏らした。
 ふと、円花が体を起こして立ち上がると、おもむろに僕に背を向け、数歩歩いてから立ち止 まった。
「・・・・・・晴之さん。私がいなくなっても、どうか思い出してね」
「な、なんだよ急に」
 円花は振り返って、儚げに微笑む。その姿が段々と薄れて、靄が掛かるように視界がぼやけていく。
 手繰り寄せるように手を伸ばして、名前を叫んだ。「円花……!」

 伸ばした指の先に、見慣れた天井があるのに気付いて、僕はようやくこれが夢だったと気付 いた。
「また・・・・・・同じ夢・・・・・・」
 体を起こすと、仏壇の上にある、笑顔の妻の写真と目が合う。
 円花は、二年前の結婚記念日前日、僕と二人の幼い息子を残し、交通事故で亡くなった。職 場に行く途中でのことだった。
 何かを訴えたいのだろうか、なんて邪推してしまうほど、近頃よく、この夢を見る。学芸員 だった円花の職場である博物館に、二人で出掛けたときの夢だ。

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