ゲート/ハルモニア
¥800 税込
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作家:高野 誓
2020年の春に、初めて書いた長編小説です。
あの時に思ったことや心のモヤモヤが反映されています。
ジャンルは、書き始めた頃は純文学だと思っていたけど、ライト文芸のような現代小説のような辺りに位置してるかも。
あらすじをわかりやすく説明するとこんなふうになるけど、う~ん……とにかくロックだよ!
下の方に試し読みあるから、チェキラ★
『ゲート』
2020年の春、コロナ禍のどん底バンドマンが行き詰まり、ヤクザと一緒に福島行ってマスク略奪ドライブする話。
『ハルモニア』
婚活しながら不倫中のOLが、怪しいバンドマン(ゲートの主人公)に恋する話。
【各1ページ試し読み・『ゲート』】
「殺してほしい人がいるの」
赤い唇の女にそう依頼される前から、俺のまわりは物騒だった。
「てめぇ、金返せねぇんだったら持ってるもん出すしかねぇだろ? 臓器売る気あんのか!」
最悪の目覚ましボイスだ。頭の上のほうに置いてあるだろうスマホを左手で探しつつ、寝っ転がったまま右手でカーテンの裾すそを持ち上げ天気を確認した。やんなるくらい、晴れてる。
ボサボサヨレヨレな格好かっこうだろうけど気にせず、狭い休憩ルームから出た。どうせ客なんて誰も来ない音楽スタジオ。
俺を起こした騒音の主がAスタの入り口扉にもたれかかって電話中なので、声をかける。
「大声出すんならスタジオ入ってくださいよ、安くしときやすよ」
「黙ってろ、クソガキ」
ヤクザはそう俺に吐き捨て、電話の向こうへ恫喝を続けた。
「おい、今だから値がつくんだよ、病院より高く買う奴がいるんだよ! わかんねぇのか? いっぺん死ね!」
サングラスと黒いスーツに黒いシャツ。テンプレ通りなヤクザの服装。
オーナーの麻雀マージャン仲間とはいえ、これ以上騒ぐならスタジオにぶちこんでやる。
やかましいBGMを打ち消そうと勢いよく冷蔵ショーケースをあけて、何飲もうか見まわす。ハイネケンを手にとりかけたけど、やっぱり朝ごはんなので瓶コーラにしといた。
ロビーの古ぼけたソファにだらしなく座りネットを見てたら、店の電話が鳴った。嫌な予感しかしない。
「ちーす、俺っす。さーせん、今日の予約なかったことでたのんます」
やっぱり、知り合いのバンドマンだった。ムダだとわかりつつも、とりあえず引き止めてみる。
「あぁー? キャンセルだと?」
「コロナ恐いんすよ」
「誰が言ってんの? シメに行くわ」
「俺がっすよ。ホントかかりたくないんすよ、コロナなんでキャンセル料なしですよね?」
「お前、マジで何言ってんだ?」
「志村けんも感染しちゃってヤバいんすよ!!!」
「パンクロックやってんのに反骨精神も音楽愛もねぇんだな」
「イギリスの王子さまもヤバいんすよ! ゴッドはセーブしてくれないっすよ!」
「何べんでも死ね! バーカ!」
ムカつくだけなので切った。
ヤクザも電話が終わったらしい。煙草に火をつけながらこっちを見て、偽善的な笑顔で話しかけてきた。
【1ページ試し読み・『ハルモニア』】
おはようなんて、ずいぶん長いこと言ってない。
「殺したい」――そんな考えが生まれる少し前まで、私たちはうまくやってた。
私はいわゆる不倫をしている。
上司のダイゴさんとは、飲み会の帰りに酔った勢いで体の関係をもつというありがちなパターンで付き合い始めた。
それから一年以上ずっと、彼以上に魅力的な男性に出会えていない。
ネットの恋愛相談とかでは「奥さんがいるおかげで彼はかっこいいんだよ」と書いてあるので、そういうことなのかもしれないけど。
ダイゴさんは奥さんと別れる気ないみたい。
私だって、彼とお子さんを引き離す気も、小学生の男の子2人のお母さんになる気もない。
でも今年のバレンタインは日曜で、ひとりで全世界を呪いながら過ごした。そしてさすがに、このままではいけないと気づいたのだ。
だけど出会いなんて全然ない。職場の男性はほとんど結婚してるし、別に習い事とかしてないし、趣味と言える趣味もない。
高校生の頃は、大きくなったら普通に彼氏ができて、夜景を見ながらオシャレなレストランでワイン飲んだりしてるんだろうと想像してた。
でもそんなキラキラした都会ライフは、東京に住んでる今でもドラマの中でしか味わえない。
とりあえず出会う人の幅を広げようと、結婚相談所に登録した。
今日は、先週のお見合いで話がはずんだ亀山さんと初デートだ。
「2月末にしては外暖かいですね」
映画を観た後、亀山さんはおいしいアップルパイのお店に連れていってくれた。私がこの間スイーツ好きと言ったのを覚えてて、調べてくれたらしい。
大きな窓から午後の陽ざしが降り注いでいる。小さな子供連れが多く、恋人たちのデート用というよりはママ友同士で集まるようなカフェ。
近くに大きな公園やIKEAがあるので、帰りに立ち寄る系なのかも。
アメリカっぽいインテリアなのに、キッチンに積まれているりんごの段ボールは青森産だった。
大きなりんごの木のオブジェがあり、すぐ下の席に案内された。
近くのテーブルに運ばれてきた分厚いアップルパイがキャラメルっぽい甘やかな薫りで気になったけど、この後の予定を考えていちばん小さいのにした。
注文したあと、亀山さんは「そういえばさっきの映画の女優さん、すごかったですね」と人の良さそうな笑顔で言った。
数日前に映画を観ましょうと誘われ好みのジャンルをきかれたはいいけど、私はまったく詳しくない。
なのでルームメイトのスミレにおすすめを聞いて、女スパイ物の『チャーリーズエンジェル』を観た。
世間話として質問してみる。
【……続きは本で!】
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